世界初!siRNAが米国で承認―Alnylamの「Onpattro」アミロイドーシス治療 新時代へ

 米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのは、先月、siRNAとして世界で初めて承認を取得したパチラシン。これまで選択肢が限られていたアミロイドーシス治療は、新時代を迎えます。

 

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

 

適応はATTR-FAP アンチセンスのイノテルセンも承認間近

2018年8月10日、米Alnylam Pharmaceuticalsの「Onpattro」(一般名・パチシラン)が、トランスサイレンチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(ATTR-FAP)の治療薬として米FDA(食品医薬品局)から承認を受けた。米国では初のアミロイドーシス治療薬で、siRNAとしては世界初の承認となる。

 

Onpattroの承認は、アミロイドーシス市場を注視していた者にとっては何ら驚くことではない。パチラシンは、重要な臨床第3相(P3)試験で高い有効性を示し、FDAからファストトラックとブレークスルーセラピーの指定を受けていた。さらに欧州でも承認勧告がなされている。

 

ATTR-FAPに対する核酸医薬としては、米Ionis Pharmaceuticals/米Akcea Therapeuticsが欧州でアンチセンスオリゴヌクレオチド「Tegsedi」(イノテルセン)の承認を取得しており、米国も承認申請中だ(FDAによる審査完了目標日は10月6日)。同じ作用機序を持ち、同じ疾患を標的とするこの2剤は、米国と欧州で熾烈な販売競争を繰り広げるとみられている。

 

ATTRアミロイドーシスとは

ATTRアミロイドーシスは、ミスフォールディングされたトランスサイレンチン(TTR)のアミロイド線維がさまざまな臓器に沈着することで発症する。

 

ATTRアミロイドーシスには、遺伝性(hATTR)と非遺伝性(wtATTR)がある。hATTRはさらに、病変がある主な臓器や組織(すなわち末梢神経か心臓か)により、家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)と家族性アミロイド心筋症(FAC)に分類される。

 

パチラシンは、3’非翻訳領域を標的とすることでTTR遺伝子をサイレンシングする二重らせんsiRNAだ。siRNAを直接肝臓内に送達し、一定の遺伝子サイレンシングを可能にするため、Alnylam社のSystemic RNAi技術(siRNAを脂質ナノ粒子に封入する技術)が使われている。一方、イノテルセンはTTRmRNAに対するアンチセンスで、Ionisのプラットフォームに基づいている。

 

臨床プロファイルはパチラシン優位も 投与方法がネックに

FDAの承認により、パチラシンは米国でイノテルセンよりも早く発売される見通しで、ATTR-FAP治療薬として一番乗りの恩恵を受けることになる。ただし、10月6日をめどに規制当局の判断が下るイノテルセンも、さほど大きな遅れをとるわけではない。

 

パチラシンとイノテルセンの重要なP3試験(それぞれAPOLLOとNEURO-TTR)を見る限り、臨床プロファイルはパチラシンの方が良さそうだ。パチラシンは、主要評価項目であるニューロパチー改善スコア(mNIS+7)とQOL(Norfolk-QOL-DN)で高い改善効果を示しただけでなく、安全性と忍容性でも優位であることが認められた。

 

パチラシン投与に関連した有害事象はほとんどが軽度または中等度であり、インフュージョンリアクションと末梢性浮腫が主だった。一方、イノテルセンは5例で重篤な腎関連の有害事象や血小板減少症がみられた。さらに、死亡率および投与中止率は、パチラシンではプラセボよりも低かったが、イノテルセンはプラセボを上回った。

 

静注か皮下注か

この臨床データも踏まえた上でDecision Resources Groupのインタビューに応じたアミロイドーシスの専門家は、パチラシンは特に安全性と忍容性で優れており、イノテルセンよりも望ましい治療選択肢だと考えている、と語りました。

 

ただし、これらキーオピニオンリーダーは、投与方法の違いが患者選択の決定的要因になり得るとも話しています。パチラシンは臨床的な利点を持つにもかかわらず、数時間におよぶ静脈注射が必要で、皮下注のイノテルセンと比べて不便に思う患者もいるだろう。専門家は、この2剤はいずれも患者に大きな利益をもたらすと考えており、パチラシンで効果が得られなかった場合はイノテルセンに切り替えてもいいし、その逆も可能だと語っています。

 

このため、パチラシンは臨床プロファイル的に優位で、かつ一番乗りという利点があるものの、イノテルセンが大きなシェアを獲得する可能性は十分あると言える。

 

価格は年間45万ドル

Alnylamはパチラシンの価格を、表示価格で年間45万ドル、正味価格で34万5000ドルにすると発表した。また、Harvard Pilgrimなどの大手保険会社を含む特定の民間営利保険会社と、価格に基づく同意(value-based agreements:VBA)条件に関して基本合意に至ったことも発表した。

 

これによりAlnylamは、治療効果が臨床試験で示されたものと同等だった場合のみ、薬剤の料金を全額受け取ることが保証される。保険者割引とVBAによって、患者は確実にパチラシンを使用しやすくなるし、Alnylamは保険償還をめぐる障害を避けられると考えられる。

 

この合意について詳しいことは明らかにされていないが、Alnylamは大手保険者と独占的な合意を交わすことで、米国初のATTR-FAP治療薬というアドバンテージを活用するだろう。論理的には、イノテルセンを推奨医薬品リストから除外したり、パチシラン投与後の段階的治療計画を経た場合にだけイノテルセンの使用を許可したりすることで、イノテルセンよりパチラシンの使用を優先させることも可能だ。

 

AkceaとIonisはイノテルセンの事業化計画を明らかにしていない。Alnylamと同様の戦略をとる可能性はあるし、価格も同等に設定するのではないかと我々は予想している。

 

アミロイド心筋症には依然として治療薬がない

欧州で2011年に承認されたファタミジス(ファイザーのVyndaqel)を除けば、ATTRアミロイドーシスを対象に承認された治療薬はほかにない。ジフルニサルやドキシサイクリン/タウロウルソデオキシコール酸といった薬剤の適応外使用による治療が中心で、臨床的ベネフィットのエビデンスは限られている。

 

ATTRアミロイドーシスにおける疾患修飾性治療薬へのアンメットメディカルニーズは高く、パチラシンの承認は間違いなくこの目標へと前進する革命的な第一歩となる。

 

ただし、パチラシンのラベルは、FACまたはwtATTRアミロイドーシス患者(主な疾患は心筋症)を対象としていないため、期待されたほどの大きな躍進とはならない。これは、APOLLO試験が無症候性の心臓性アミロイド沈着のあるFAP患者を組み入れていたことを含めると、特段驚くべきことでもない。パチラシンはこれらの患者の心臓パラメーターでいくらかの改善を見せたが、Alnylamはより対象範囲の広いラベルを獲得するには、心筋症患者集団における特別な試験を実施しなければならないかもしれない。

 

イノテルセンも、同じ理由でラベルの対象範囲は狭くなり、承認されてもFACとwtATTRアミロイドーシス患者は対象外になると考えられる。さらに、この薬剤には血小板減少症関連の副作用が発現するため、今後、これら心筋症に適応を広げる可能性は低い。

 

この領域で有望な2つの薬剤が発売されてもなお、少なくとも当分の間は、ATTRアミロイドーシスの多くを占めるATTR-FAC患者とwtATTR患者には依然として承認薬はないということになる。

 

ATTR心筋症患者にとって希望があるとすれば、それはファイザーのタファミジスだ。同薬は現在、FACとwtATTRを対象としたP3試験(ATTR-ACT)を行っている。ファイザーが最近公表したこの試験の良好な中間解析結果は、アミロイドーシス関係者に大きな興奮を巻き起こし、高い期待を抱かせた。2012年、FDAはATTR-FAPを対象としたタファミジスの申請を承認しなかったが、これに続いてファイザーがATTR関連心筋症を適応とした開発を始めたことは注目に値する。

 

併用療法が重要な治療戦略に

Decision Resources Groupのインタビューに応じたアミロイドーシス専門家は、ATTRアミロイドーシスの理想的な治療は、TTR安定化とTTR遺伝子サイレンシングなど、2つの異なるアプローチを組み合わせた併用療法だろうと話している。この点では、タファミジスとパチラシンの併用療法は今後、ATTRアミロイドーシスに対する重要な治療戦略になるかもしれない。

 

ただし、これには臨床試験で有効性と安全性を示すことが必要だ。今のところ、ファイザーとAlnylam、Ionis/Akceaはいずれも、このような臨床試験の計画を公表していない。専門家は、アミロイドーシスで高まるアンメットニーズを満たすという意味で、併用療法の開発は価値のあることだと述べている。

 

有望な治療薬が相次いで承認を取得している今は、アミロイドーシス治療にとって刺激的な時だ。しかし、アミロイドーシスとの戦いにはまだ長い道のりが残されている。FDAによるパチラシンの承認は足がかりに過ぎない。

 

(原文公開日:2018年8月20日)

 

【AnswersNews編集長の目】

世界初のsiRNAとして注目を集めるパチシラン。Alnylamは同薬の開発・販売でサノフィジェンザイムと提携を結んでおり、米国・カナダ・西欧はAlnylamが、そのほかの地域はサノフィジェンザイムが担当しています。日本ではサノフィジェンザイムが申請準備中です。

 

siRNAやアンチセンスなどの核酸医薬は、RNAに直接作用し、疾患に関わるタンパク質の合成そのものの合成を防ぎます。低分子薬や抗体医薬では難しかった疾患も治療が可能になると期待されており、実際、いくつかの薬剤がすでに承認されています。

 

日本では昨年、バイオジェン・ジャパンの脊髄性筋萎縮症治療薬「スピンラザ」が初のアンチセンス核酸医薬として承認されました。

 

開発に目を向けると、第一三共と日本新薬が、それぞれデュシェンヌ型筋ジストロフィーを対象にアンチセンス核酸医薬を開発中。第一三共の「DS-5141」は日本でP1/2試験の段階にあり、厚生労働省から先駆け審査指定制度の対象品目に指定されています。日本新薬の「NS-065/NCNP-01」は国立精神・神経医療研究センターとの共同開発で、日本でP1/2試験、海外でP2試験を実施中です。

 

siRNAでは、日東電工が米ブリストル・マイヤーズスクイブと組んで「ND-L02-s0201」を開発中。進行性アルコール性脂肪性肝炎や肝硬変などが対象で、米国ではファストトラックの指定を受けています。

 

特許庁が2016年に公表した報告書によると、世界で行われている核酸医薬品の臨床試験は43社141件で、日本企業はそのうち4社7件にとどまりました。市場は今後、急速に拡大するとみられているだけに、日本企業の出遅れが心配です。

 

この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものを承諾を得て掲載しております。

 

【記事に関する問い合わせ先】
ディシジョン・リソーシズ・グループ(担当:斎藤)
E-mail:ssaito@teamdrg.com
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